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会計事務所M&Aを分かりやすく解説!売却相場や職員・顧問先を守る具体策とは

公開日:2026/07/17

最終更新日:2026/07/17

会計事務所M&Aを分かりやすく解説

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「自分の会計事務所は、自分が引退したらどうなるのだろう」――。現在、多くの会計事務所が所長の高齢化や後継者不在という深刻な壁に直面しています。税理士は顧問先にとって最も身近な経営パートナーであり、長年苦楽を共にした職員の雇用を守るためにも、事務所をそのまま閉じるわけにはいかないと悩む所長先生は少なくありません。

かつては大企業のものというイメージの強かったM&A(合併・買収)ですが、現在の会計業界においては、これまで大切に育ててきた事務所と信頼関係を次世代へ確実に引き継ぐための「極めて前向きな事業承継の選択肢」として定着しています。

この記事では、会計事務所M&Aの現状や仕組み、具体的な進め方、そして成功のために欠かせない実務上のポイントを分かりやすく解説します。

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1. 会計事務所のM&Aとは?

会計事務所のM&Aの基本的なプロセス

会計事務所のM&Aがどのような手順で進むのか、具体的な流れを見ていきましょう。一見難しそうに思える手続きですが、本質的には「お互いを深く理解し、信頼関係を築くプロセス」です。

まず最初に、情報の漏洩を防ぐために秘密保持契約(NDA)を結びます。顧客の機密情報を守るため、最初は地域や売上規模などの匿名情報(ノンネームシート)の提示からスタートし、双方が前向きに検討を進める段階になって初めて、実名を開示して詳細な資料をやり取りします。

次に行われるのが「トップ面談」です。会計事務所の経営者同士が直接顔を合わせ、経営理念や職員に対する考え方、顧問先への向き合い方を語り合います。単なる条件交渉だけでなく、この価値観の共有がM&A成功の大きな鍵となります。

お互いの意向が固まり、基本合意に至ると、最重要プロセスである買収監査(デューデリジェンス:DD)に進みます。財務や労務状況の確認に加え、会計事務所特有のチェックとして、過去に作成した税務申告書の品質、顧問契約書の整備状況、顧客への実質的な訪問・対応頻度なども入念に調査されます。過去に大きな税務リスクがないかを確認する大切な作業です。

会計事務所のM&A市場の現状

現在、会計業界におけるM&A市場は非常に活発に動いています。その最大の要因は、業界全体の高齢化です。税理士の平均年齢は60歳を超えており、引退を見据えてM&Aによる事業承継を希望する所長が増加しています。

一方で、事業を譲り受けたい買い手側の意欲も非常に旺盛です。全国展開や規模拡大を目指す税理士法人などは、クライアント基盤と、実務経験のある優秀な人材を同時に確保するために積極的な譲り受けを行っています。実務経験者の採用難が続く中、組織ごと迎え入れられるM&Aは買い手にとって大きな魅力です。

また、デジタル化への対応もこの流れを加速させています。クラウド会計の導入や、相次ぐ複雑な税制改正に対応するには一定のインフラ投資や教育体制が必要ですが、小規模事務所では限界があるのも事実です。そのため、すでにIT環境が整った大手グループに合流し、バックオフィスの負担を軽減して顧客対応に専念したいという譲渡側のニーズも高まっています。

2. 会計事務所のM&Aのメリット

売手側:後継者問題の解決と円滑な引退の実現

譲渡側における最大のメリットは、後継者問題を確実に解決できる点です。親族やスタッフの中に資格を引き継ぐ後継者がいない場合、所長の引退はそのまま「廃業」を意味します。廃業となれば、顧問先は新たな税理士を自力で探さなければならず、職員も職を失うことになります。

第三者へM&Aで事務所を譲渡すれば、これまでの信頼関係を保ったまま、買い手の組織力を活かして顧問先へのサポートを継続でき、職員の雇用や待遇も守られます。

さらに、所長自身がこれまで築き上げた営業権(のれん)の対価を受け取ることで、引退後の資金を確保できるメリットもあります。個人の会計事務所を譲渡した場合は所得税法上の「事業譲渡(総合課税となる譲渡所得など)」として扱われるため、法人か個人かで税金面の実務上の取り扱いは異なりますが、創業者として正当な対価を得てハッピーリタイアを実現する極めて有効な手段です。

買手側:事業拡大と即戦力確保による成長加速

買い手側の視点に立つと、M&Aは成長のための時間を買う「極めて合理的な経営戦略」と言えます。

通常、会計事務所が規模を大きくするためには、地道な新規開拓で顧問先を増やし、それに伴って職員を採用・育成する必要があります。これには多大なコストと年月がかかり、採用した職員の定着リスクも伴います。

しかし、実績のある事務所を譲り受けることで、安定した収益を生み出す顧問先ポートフォリオと、実務に精通した即戦力スタッフを同時に迎え入れることができます。営業・採用・教育にかかるリソースを大幅に削減できるメリットは経営上計り知れません。

さらに、お互いの強みを掛け合わせることでシナジー効果(相乗効果)も期待できます。例えば、法人税務が中心の事務所が、相続税に強い事務所や国際税務のノウハウを持つ事務所と統合することで、自社単独では難しかった高度なサービスを短期間でラインナップに加えることが可能になります。

3. 会計事務所がM&Aを検討する理由

会計事務所が直面する経営課題とM&Aの必要性

会計業界を取り巻く実務環境は、近年目まぐるしいスピードで変化しています。インボイス制度や電子帳簿保存法などの法改正への定着対応に加え、AIを活用した記帳自動化、業務効率化ツールの導入など、対応すべきIT課題は山積みです。

一人の所長税理士がすべての最新トレンドを追いかけ、システム投資を単独で行い続けることには限界が生じ始めています。日々の申告業務に忙殺される中で、属人的な運営にとどまっていては、多様化する顧問先のニーズに応えきれなくなる懸念があります。

そのため、豊富なシステムインフラや充実した教育体制を備えた組織力のあるグループに合流し、より高いクオリティのサービスを顧問先へ提供し続けたいと考える所長が増えています。時代の変化に適応し、事務所の付加価値を落とさないための選択肢として、M&Aは非常に現実味を帯びているのです。

譲渡による「事業の継続性」の確保

もう一つ重要な視点が、「万が一の事態への備え」です。税理士が一人で運営する個人事務所の場合、所長に突然の病気や事故があった際、事務所は深刻な機能不全に陥ります。

税理士法上の規定により、資格を持つ税理士が不在となれば、税務代理業務を継続することはできません。進行中だった決算や申告がストップすれば、期限遅れによるペナルティなど、顧問先へ甚大な損害を与えてしまいます。

だからこそ、経営者自身が健康で判断能力がしっかりしている段階から、外部の信頼できるパートナーと提携し、出口戦略を確保しておくことが求められます。これは自身の引退準備であると同時に、長年信頼してくれた顧問先と職員に対する、専門家としての最大の誠実さであり責任の果たし方と言えます。

4. 具体的な進め方と注意点

会計業界に強い専門家の選び方

M&Aを成功に導くためには、客観的な立場でサポートしてくれる専門家の選定が不可欠です。近年は銀行や一般のM&A仲介会社など選択肢は広がっていますが、最大の注意点は「会計業界特有のビジネスモデルや現場の実務を熟知しているパートナー」を選ぶ点です。

一般的な企業(製造業や小売業など)の売買とは異なり、会計事務所の最大の無形資産は「職員と顧問先との間に築かれた人間関係」にあります。単に財務上の数字を合わせるだけのマッチングでは、引き継ぎ後に齟齬が生じるリスクが高まります。

職員の労務環境や心理面のケア、顧問先へ伝えるタイミングや挨拶回りの具体的な手順など、現場レベルでの生々しい引継ぎプロセスに並走してくれる専門家を選ぶことが、成否を大きく分けます。

適正な価格設定と「売上倍率法」の相場

M&Aを検討するうえで、最も重要となるのが譲渡価格です。会計事務所の取引においては、実務上「売上倍率法」という算出基準が広く用いられます。これは、事務所の年間売上(顧問料や決算料などの年間報酬総額)に、一定の倍率を掛けて評価額の目安とする方法です。

相場の目安としては、年間売上の0.5倍から1.5倍程度の範囲内で決定されるケースが多くなっています。例えば、年間売上が5,000万円の事務所であれば、2,500万円から7,500万円の間が取引価格の一つの指標になります。

ただし、この数字はあくまで大枠の目安です。事務所の純資産に、将来の超過収益力(営業権・のれん)をどれだけ上乗せできるかは、顧問先の年齢層や地域性、訪問対応の頻度、契約書の整備状況、職員の資格有無などを総合的に判断して算出されます。自社の客観的な市場価値を事前に把握しておくことが交渉を進める第一歩です。

5. 成功するためのポイント

徹底した事前準備と計画性

「譲渡を決断すればすぐに良い買い手が見つかり、M&Aが完了する」ということはありません。譲渡条件を良くし、お互いが不要なトラブルを避けて安心して取引を行うためには、時間をかけた事前準備が何より大切になります。

たとえば、曖昧になっていた顧問契約書を最新の法令に則って再整備することや、経営者の個人的な経費と事務所の経費をクリアに区分しておくことが挙げられます。また、未払残業代などの潜在的な労務リスクを事前に解消しておくことも欠かせません。

こうした地道な「事務所の整理整頓」を済ませておくことで、買い手側の安心感が高まり、最終的な譲渡価格(評価)のアップにも繋がります。準備だけで数ヶ月から1年近くを要する場合もあるため、引退時期から逆算し、スケジュールに余裕を持って計画を進めることが成功の鉄則です。

M&A後のキーマン・顧問先に対する「心のケア」

M&Aは契約書を取り交わし、資金決済が終われば完了というわけではありません。むしろ、その後の「PMI(経営統合プロセス)」と呼ばれる引き継ぎ期間こそが本番です。

買い手側にとって最も大きなリスクは、譲渡後に有能な職員が不安から退職してしまうことです。実務の担当者が辞めてしまうと、顧問先の解約(流出)に直結します。そのため、事業譲渡の事実をいつ、どのように伝えるかには細心の配慮が必要です。事前に信頼できる幹部職員(キーマン)と面談を行い、待遇や雇用が守られることを丁寧に説明して安心感を与えるプロセスが必須となります。

同様に、顧問先への挨拶回りも丁寧に進めるべきです。しばらくの間は前所長と新しい所長が連れ立って訪問し、「これまでと何一つ変わらない手厚いサポート体制を継続する」ことを誠意を持って説明する。このように「人の感情」に寄り添った対応を徹底することが、引き継ぎ後の解約リスクを最小化し、M&Aのメリットを最大化する絶対の秘訣です。

執筆 ・ 監修

安井貴生

税理士

平成27年度税理士試験に官報合格(簿記論・財務諸表論・法人税法・相続税法・消費税法)を果たし、その後10年間に渡り税理士として活躍。 現在は藤和税理士法人所属の税理士として活動しており、法人税・所得税・相続税 等、幅広い業務を担当中。最近では、相続や事業承継案件を多く扱っている。