INDEX

おすすめ記事

記事を全て見る

AIに税理士の仕事が奪われる?税理士が知っておくべきAIの活用法をご紹介

2024/11/15

INDEX

近年、AI(人工知能)の普及により、税理士の仕事が奪われるのではないかという懸念が広がっています。しかし、AIがすべての業務を代替することは不可能と言われています。

むしろ、AIを活用することで税理士の仕事がより充実し、効率的になる可能性があるのです。 この記事では、 AIにより税理士の仕事が奪われると言われる理由やAIにできない業務、税理士が活躍するポイントについて詳しく解説していきます。 参考までに、是非ご一読ください。

AIの進化で税理士の仕事がなくなると言われる理由

現在、AIの進化により、従来人間が行っていた多くの業務がAIに取って代わられています。 一部では、 AIの進化で税理士の仕事がなくなるとも囁かれていますが、なぜそう言われているのでしょうか。

その理由を3つ解説します。

AI研究者が論文を発表

2013年、オックスフォード大学のマイケル・オズボーンが発表した論文「THE FUTURE OF EMPLOYMENT」(雇用の未来)によると、 AIが導入されれば、702職種はAIにより代替すると発表されました。その702職種に、税務・会計に関する次の業務も含まれていたのです。

業務内容 詳細説明
確定申告代行者 納税者に代わって所得税の確定申告書を作成・提出する業務。必要な書類の収集、所得や控除の計算、税額の算定など、税務に関する全ての手続きの事を指します。
データ入力係 会計システムに財務データを入力する担当者です。取引明細や領収書などの情報を正確に入力し、データの整合性を保つことが求められます。
簿記、会計、監査の担当者 企業や個人の財務記録を管理し、正確な会計帳簿を作成する専門家です。月次決算や年次決算の作成、財務諸表の作成、内部監査を実施し、財務状況を正確に把握することが求められます。
給与支払い業務の担当者 社員の給与計算と支払いを管理する担当者です。労働時間の集計、各種手当や控除の計算、給与明細の発行、税金や社会保険料の控除・納税を行います。

発表された当時、会計ソフトは普及していたものの、入力作業は手作業が一般的であったため、「AIに務まるはずがない」と言われていました。 しかし現在は、クラウドソフトの普及によりオンラインにて入力作業や決算、仕訳業務が行えるようになり、 「AIに税理士の仕事が奪われる」未来が現実味を帯びてきています。

AI活用により税理士の仕事がなくなったエストニアの事例

実際に、デジタル政府の先駆者として知られるエストニアでは、AI技術の導入により税理士の仕事がなくなると言われています。エストニアでは、 AIが納税者のデータを自動的に分析し、税務申告書を作成するシステムが導入されています。

このシステムにより、従来の税理士が手作業で行っていた多くの業務が自動化され、迅速かつ正確に処理されるようになりました。

また、リアルタイム監査機能も備わっており、不正やミスを即座に調査できます。これにより、エストニアでは 税理士の業務が大幅に削減され、税理士はコンサルティング業務や高度な財務アドバイスにシフトしています。

この事例は、AIの活用が税理士業務をどのように進化し得るかを示しており、他国にとっても重要な示唆を与えています。

会計・税務業務のクラウド化

近年、会計や税務業務のDX化が進み、AIによる自動化が可能となりつつあります。 これは、データの入力、整理、分析といった日常業務を効率化し、時間とコストを削減するための手段です。 クラウド化によって、情報は一元管理され、リアルタイムでの更新や共有が可能となり、リモートワークやテレワークの推進にも寄与しています。

さらに、AIの進化により、税金の計算や申告書の作成など、従来人間が行っていた作業の自動化が進展しています。これらの技術の進歩は、一部で税理士の仕事がなくなるという声を生んでいます。

しかし、 AIが自動化できる範囲は限られており、税理士が持つ専門知識や経験を必要とする業務も多く存在します。

日本の税理士業務はAIに完全代替されるのか?エストニアと比較した課題と可能性

前章で説明した通り、税理士業務の一部はすでにAIによる自動化が始まっており、「デジタル国家」のパイオニアとして知られるエストニアにはほぼ完全に税理士業務がAIに代替されています。では、日本でも税理士業務が完全にAIに代替される日は来るのでしょうか?

結論、日本の税理士業務がAIに完全に代替されるには多くの課題と考慮すべき要素が存在し、税理士の仕事は残り続けると考えられます。

ここでは、エストニアのデジタル化体制と比較しながら、日本におけるAI活用の未来について考察します。

エストニアの税務システム:先進的なデジタル化による「自動化社会」の実現

「デジタル国家」のパイオニアとして知られるエストニアは、行政手続きの99%がオンラインで完結します。1990年代の独立以来、政府主導で電子化を進め、IDカードや電子住民票システム(e-Residency)を整備し、個人や企業の納税情報や経済活動が一元管理されています。エストニアでは、これらのデジタル基盤にAIとブロックチェーン技術が組み込まれており、納税者の税務情報をリアルタイムで更新・確認できるシステムが整っています。

この体制により、ほとんどの税務処理は自動化され、企業や個人は簡単な確認をするだけで申告手続きが完了します。エストニアにおいて税理士は存在しないわけではありませんが、その役割は日本とは大きく異なり、事業支援や高度な税務戦略の策定が主な業務となっています。

日本の税理士業務:複雑な税制と人間的なサポートへのニーズ

一方、日本の税理士業務にはAI導入が進んでいるものの、エストニアと比較していくつかの独自の課題があります。日本の税制は多様かつ細分化されており、所得税、法人税、消費税といった基本的な税目に加え、さまざまな控除制度、特例措置、地方税などが複雑に絡み合っています。

例えば、企業の税務処理では、納税に伴う経費管理や経営戦略に影響を及ぼす判断が必要とされ、税理士は単なる税務処理の代行者ではなく、経営のパートナーとして税務戦略の提案やサポートも行っています。

このような状況では、税務申告のデータ入力や計算業務の一部をAIで効率化できたとしても、クライアントごとの事情や複雑な税制への対応が求められるため、AIがすべてを代替するのは難しいとされています。また、税務調査への対応や節税のための提案といった役割には、法令や慣習の変化への適応力が必要とされるため、現段階では人間の判断が不可欠です。

エストニアと日本の行政体制の違い:デジタル化推進の課題と未来の展望

エストニアでは、政府がデジタル化を全面的に推進し、全国民の電子IDや個人情報管理システムが整備されています。このように、行政と個人が信頼関係を築きながらデジタル化を推進していることが、税務処理の完全自動化を支えています。また、個人情報の管理においてもブロックチェーン技術を活用し、安全かつ透明性の高い運用がされています。

一方、日本では個人情報の管理やプライバシー保護への意識が非常に高く、システム導入には慎重な姿勢がとられています。個人情報保護法の整備や、情報の取り扱いに関する規制が厳しいため、デジタル化に一定の制限がかかることが多いです。また、地方自治体ごとに異なるシステムが導入されているケースもあり、全国的な統一基盤の整備が進んでいません。これが、税務処理の自動化やデジタル化の妨げになっていると考えられます。

日本におけるAI活用の可能性と税理士の役割の変化

こうした状況の中でも、日本ではAIの活用が着実に進んでおり、特にデータ入力や領収書の処理、自動仕訳といった定型業務の自動化が進行中です。クラウド会計ソフトの登場により、個人事業主や小規模企業はAIを活用して基本的な税務処理を行えるようになっています。将来的には、さらに高度な税務分析がAIによって可能となり、特定の業務はAIが担当し、税理士はより高度な戦略立案や相談業務に注力するという役割分担が進むと予想されます。

また、税務におけるAI活用の進展は、税理士業務の専門性をより際立たせる要素にもなり得ます。例えば、税務リスクの予測や、節税効果のシミュレーション、業種ごとの最適な税務戦略の策定など、単純な申告業務だけではなく、経営の側面から価値を提供できる税理士の需要が高まる可能性があります。

エストニアとの比較を踏まえると、日本ではAIによる税理士業務の一部代替が進む一方で、税理士に求められる役割は引き続き重要です。特に、日本の税制が複雑であること、そして税理士が果たすコンサルティング的な役割が多岐にわたることから、AIがすべてを代替するのは現実的ではないと考えられます。

しかしながら、税務処理の効率化とAIの進展は確実に進むため、今後の税理士業務は単純な税務処理から脱却し、より高度な戦略やリスク管理の提供が求められるようになるでしょう。これにより、税理士業界もAIと共存しながら、新たな価値を提供する形で進化していく可能性が期待されます。

AIにできない税理士業務とは

ここまで、AIの進化により税理士の仕事の一部が奪われると説明してきましたが、 AIには得意・不得意な作業があります。では、AIに代替できない税理士業務とは何があるのでしょうか。

クライアントの特殊事項を考慮した業務

クライアントの特殊事項を考慮した処理は、AIが不得意とする業務の1つです。 具体的には、 個々の企業の業態や業界特有の税制、企業の事業戦略や経営状況に応じた税務処理など、様々な要素を総合的に判断し、クライアントにとって最善な税務処理を行うことが求められます。

このような複雑な判断は、クライアントの状況を理解し、深い知識と経験を持つ税理士でなければ難しいと言われています。また、特定の業界や企業の特性を理解するためには、人間の観察力や洞察力が必要となり、これらは現状のAIではまだ実現できていません。

したがって、 特殊事項を考慮した処理は、AIが代替するのが難しい税理士業務と言えます。

コンサルティング業務

コンサルティング業務もまた、AIが不得意な業務であると言われています。 クライアントのビジネス状況や業界特性、税制の変動など、多種多様な要素を総合的に考慮し、最適な税務戦略を提案するための専門的知識と経験を必要とするからです。

特に、 新規ビジネスモデルや未知の課題に対する解決策を提案する場合、あるいは複雑な税務問題を解決するための戦略を策定する場合、税理士の経験と知識が必要となります。また、クライアントとの信頼関係を築くための コミュニケーション能力も、AIが置き換えられない要素です。

実際にAIにより税理士の仕事が奪われたと言われているエストニアでも、コンサルティング業務は税理士が担当してる状況から、コンサル業務は今後も税理士の重要な役割となり続けるでしょう。

法のアップデート

税法は国や地域により異なるだけでなく、政策変更や経済状況の変動に応じて頻繁に税制改正されます。 これらの 法改正をリアルタイムで把握し、その影響を正確に予測し、クライアントに適切な対策を提案するためには、税理士の専門知識と経験が不可欠です。

また、新たな税法が導入された際には、それがクライアントのビジネスにどのような影響を及ぼすかを評価し、最適な戦略を立案することも税理士の役割です。

これらはAIが単にデータを処理するだけでは達成できず、クライアントに対する深い知識と経験に基づく判断が必要となります。

したがって、税法のアップデート対応は、AIには難しい税理士の業務です。

AIがあっても税理士が活躍する3つのポイント

AIが進化し、多くの業務が自動化される中、 税理士が活躍するためには以下の3つのポイントが鍵となるでしょう。

AIやITツールを使いこなす

税理士が活躍できる最初のポイントは、AIやITツールを使いこなす能力を持つことです。

例えば、AIは大量のデータを迅速に処理する能力を持ち、複雑な計算やルーチンワークを効率よくこなすことができます。これらを活用し、 AIと共存することで、税理士は時間を有効に使い、人間にしか対応できない、より高度な業務に専念することが可能となり業務時間の短縮につながります。

しかし、これらのツールを使いこなすには、ITスキルや最新知識のインプットが必要不可欠です。そのため、税理士自身が学び続け、スキルを磨く必要があります。

このように、 AIやITツールを使いこなすことは、税理士がAI時代でも活躍するためのポイントとなります。

専門性を高める

AIに仕事を奪われない税理士になるには、 特定の業界や分野への専門性を高めることも大切です。 税理士が手掛ける専門的な業務は、事業継承や組織再編、M&A関連業務、IT業界特化や国際税務などがあります。

自身が得意とする分野を持つことで、クライアントからの需要が高まることはもちろんのこと、AIに代替できない税理士となることができるでしょう。

コミュニケーション力を強化する

コミュニケーション力を強化することは、AIが進化しても税理士が活躍するための鍵となります。

AIはデータを解析し、結果を出すことが得意ですが、その結果をクライアントに伝え、理解してもらうことはできません。また、クライアントの事業に対する理解や、その背景にある事業戦略を理解することもAIには難しいです。

これらの情報を元に、 最適な税務戦略を提案するためには、税理士とクライアントとのコミュニケーションが必要です。

さらに、税法の変更や新たな制度の導入など、常に変化する税務環境をクライアントに理解してもらうためにも、明確で分かりやすいコミュニケーションが求められます。また、クライアントの信頼を得るためにも、円滑なコミュニケーションは必要不可欠です。

これらの理由から、 税理士はコミュニケーション力を強化することで、より価値あるサービスを提供することができます。

税理士の仕事とAI-まとめ

AIの進化により、税理士の業務が自動化される可能性が増していますが、その一方で、 AIにはまだ対応できない業務も存在します。そして、そのギャップを埋めるのが現代の税理士の新たな役割と言えるでしょう。 AIやITツールを使いこなし、専門性を高め、コミュニケーション力を強化することで、税理士はAIと共存し、その存在価値を高めることが可能になります。

この記事では、AIの進化により税理士の仕事がなくなると言われる理由、AIにできない税理士業務、そしてAIがあっても税理士が活躍するポイントについて詳しく解説しました。これらの情報を基に、税理士はAIとの共存戦略を立て、自身の専門性を強化することが求められます。

最後に、 AIと税理士の共存は、単なる業務効率化だけでなく、より高度なコンサルティング業務やクライアントの特殊事項を考慮した業務など、人間特有のスキルアップを図るためのチャンスでもあります。これらの視点から、AIを最大限に活用し、共存できる税理士になることの重要性を再認識していただければ幸いです。

執筆 ・ 監修

城之内 楊

株式会社ミツカル代表取締役社長

株式会社ミツカル代表取締役社長。 1990年生まれ。20代では士業向けのコンサルティング会社(株式会社アックスコンサルティング)で最年少役員として8年間勤務。これまで、3,000以上の税理士事務所のコンサルティングや士業向けのセミナーに複数登壇。さらにはスタートアップから上場企業まで外部顧問や役員としても活躍する。 退職後、税理士業界を活性化するために、税理士事務所の採用支援サービスを展開する株式会社ミツカルを創業。ミツカルでは年間2,400名以上の税理士事務所の求職者をサポート。審査基準を通過した優良事務所のみを紹介しており、ミスマッチのない転職支援を行っている。