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企業内税理士の役割とは?仕事内容と求められる能力

2024/09/11

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税理士の働き方の1つとして、企業内税理士があります。
企業内税理士とは、一般企業に所属し税理士として活躍する働き方です。
企業内税理士は、税理士事務所等で働く場合と業務内容や取り巻く環境が大きく異なるため、向いている人と向いていない人がはっきり分かれています。
本記事で企業内税理士の概要を掴み、自分が理想とする働き方ができるかどうかご確認ください。

企業内税理士とは?

企業内税理士とは、一般企業で働く税理士のことです。
主に大企業で活躍できます。中小企業や個人事業主の下で企業内税理士として働くチャンスは滅多にありません。なお立場は「会社員」になります。

企業内税理士の仕事内容

企業内税理士は、所属している企業の税務等に関する仕事を行います。
主に下記のような業務です。

  • ・各種申告・納税業務
  • ・月次決算や年次決算
  • ・税務書類の作成
  • ・税務調査の立ち合い
  • ・税務アドバイス
  • ・国際税務
  • ・経理業務

税理士事務所等に勤める税理士との大きな違いは、仕事内容が多岐にわたることでしょう。
多くの場合で経理部や財務部に配属され、納税時期には税務業務に携わりますが、それ以外の時間で記帳やその他の雑務もこなします。また他部署からの要請があれば別の業務に携わることになります。

海外進出の際には国際税務が必要になりますし、企業規模によっては海外子会社の税務や連結決算といった業務を行う機会があるかもしれません。
中小企業の法人税決算が中心となる一般的な税理士とは、仕事の幅が異なるのです。
また関われる企業数も違います。

企業内税理士の活躍の場は、自社やグループ企業の税務範囲に限定されます。
一方で税理士事務所等に勤める場合は、クライアントとなる多くの企業と関われます。

企業内税理士が求められる理由

税理士事務所に税務業務を委託する方法もあるのに、なぜ企業内税理士という働き方が存在するのでしょうか。その理由は以下の4点です。

早く意思決定ができる

税務の分野で経営者に大きな決定が迫られる場合、税務のエキスパートである税理士を頼るのは当然です。

しかし一般的な税理士は他にもクライアントを何社も抱えており、すぐに連絡がつくとは限りません。一方で、企業内税理士が在籍しているならば、勤務時間内にすぐ相談できます。
早く意思決定ができることは、経営にスピード感が求められる現代において大変重要なポイントです。そのため外部の税理士ではなく、企業内税理士を選択するのです。

機密情報を保持しやすい

一般的な税理士に税務業務を委託した場合、外部に自社の情報が漏れてしまうことになります。税理士事務所ではきちんと管理してくれますので問題ありませんが、情報漏洩が発生する危険性はゼロではありません。

しかも、税理士に預ける情報は自社の経営状態に深く関わる資料です。
情報漏洩等を発生させないために、自社内で情報管理できる体制を作り上げておきたいのが企業側の本音です。
そこで企業内税理士を雇用し、財務諸表等の重要書類や情報が漏れないようにしているのです。

企業によっては経理部署を別会社で設立し、グループ企業全体の経理を一点集中させています。これもまた機密情報漏洩を防ぐためです。

何でも依頼できる

税務業務ならばどの税理士であっても何でも依頼できるように思いがちですが、実際には「高度な案件は受けない」「記帳代行の契約がなければ受けない」等の制約がつきものです。

税理士事務所には事務所の方針があり、依頼の選別もまた経営方針の1つですから、クライアントは文句を言えません。
その点、企業内税理士ならば文字通り何でも依頼できます。もちろん事業に関連することに限定されますが、国際税務のような高度な案件や海外出張も任せられますし、手が空いている時には経理の手伝いを依頼することもできます。企業の繁忙期に別部署の手伝いをさせることも可能です。

このように税務の範囲を超えて何でも依頼できるため、企業としては使い勝手が良いのです。

コストカット

企業内税理士に支払う給与と外部の税理士に支払う報酬額を天秤にかけた時、企業内税理士の方が安く済むケースがあります。

外部の税理士に支払う報酬には、事務所維持のための水道光熱費、会計スタッフ等に支払う給与等が含まれているためです。また国際税務やデューデリといった高度な依頼には、当然高額な報酬を請求されます。

一方、企業内税理士に支払う給与は給与規定で定められた金額であり、依頼する業務内容がどのようなものであっても変動しません。残業代が発生する程度です。支払う給与額は事前に大体の予想がつきます。

企業内税理士に求められる能力3選

企業内税理士として活躍するためには、一般の税理士とは少し異なる能力が求められます。
ここでは重要な3つの能力を紹介いたします。

税理士資格

税理士資格は企業内税理士となるために必須の資格です。
企業で働きながら税理士資格を目指しても良いですし、税理士資格を取得してから転職しても良いでしょう。
ただし企業内税理士を求めている企業は大企業が中心で、転職の際には年齢制限が設定されていることも少なくありません。
そのため税理士資格取得よりも先に、企業内税理士を必要としている大企業へ転職しすることがおすすめです。

なお税理士と名乗るためには、原則として①税理士試験合格②2年間の実務経験③税理士登録の3つが必要です。
税理士試験に合格したとしても、税務の実務経験が2年以上なければ税理士にはなれません。また税理士として登録しなければ、税理士とは名乗れません。
2年間の実務経験は、企業内の業務でカバーできます。実務経験とみなされる業務を2年以上行い、実務経験の要件をクリアしてください。

税理士登録については工夫が必要です。
税理士登録の際は、下記3つの区分から1つを選択します。企業内税理士という区分はありません。

  • ・開業税理士(税理士事務所を開業した税理士)
  • ・所属税理士(税理士事務所や税理士法人で勤務する税理士)
  • ・社員税理士(税理士法人における役員や取締役にあたる税理士)

企業内税理士として活躍する場合、多くの場合で選択できるのは開業税理士のみです。自宅を事務所として「開業税理士」で登録します。
ただし、税理士登録をしないで企業内税理士として働くことも可能です。

その場合は税理士試験合格を所属企業に報告するだけで、税理士登録の作業は行いません。
なお税理士事務所等で勤務する場合、税理士には資格手当てが上乗せされることが多いですが、企業内税理士に資格手当が上乗せされるのは稀です。
そのため、税理士登録をせずに企業内税理士(税理士登録未済)として働く人も少なくありません。

コミュニケーション能力

一般の税理士にもコミュニケーション能力は必要ですが、また別の意味でのコミュニケーション能力が求められます。
企業内税理士は、所属する部署内の同僚や上司、経理とは関係のない他部署の人々、幹部役員や経営者層、外部の税理士や税務職員、その他様々な立場の人々とコミュニケーションをとります。

一般の税理士のように経理に詳しい人とのコミュニケーションだけではありませんので、言葉の使い方や言い回し等に気をつけましょう。

所属企業の業界知識

税理士業界ではなく、所属している企業の業界についての知識が求められます。
たとえば車両メーカーならば車両メーカー業界の専門用語や動向です。
所属企業の知識が必要な理由は、社内会議への参加や税務相談業務等に必要になるためです。

税理士も税務関連の専門用語を使うように、業界の専門用語はどの企業でも飛び交います。
そのため企業の業界知識は必要不可欠なのです。
企業内税理士として働く道を選択するならば、その業界についても調査、分析しておきましょう。

企業内税理士のメリット

「企業内税理士が求められる理由」で、企業内税理士の雇用が企業にメリットをもたらすとお伝えしました。企業内税理士として働く従業員側にも、大きなメリットが存在します。

休日や福利厚生が充実

一般的に企業内税理士として活躍する場は大企業ですので、社内規定がしっかりしており、休日日数が多く、福利厚生が手厚いケースが多いです。
また土日祝日休みの完全週休2日制が基本なので、仕事とプライベートを完全に分けられます。

福利厚生についても、年1回の健康診断から映画鑑賞の割引、出産手当てや育児手当ての支給等、様々な特典が受けられます。
税理士事務所等でも労働環境は改善されつつありますが、全事務所が大企業並とはいきません。
休みが取れて福利厚生も充実している職場で長く活躍したいならば、企業内税理士はおすすめです。

年収が比較的高い

大企業は中小企業と比較して、年収が高い傾向にあります。
そのため税理士事務所等よりも高年収となるかもしれません。
企業内税理士の給与は、所属する企業の給与規定で決まります。資格手当や売上によるインセンティブは基本的にありません。

多くの大企業には年功序列制度が残っているので、勤務年数に応じて少しずつ給与アップしていきます。初任給も給与増加率も中小企業より高いため、年齢を重ねるほどに給与の差が浮き彫りになるでしょう。

高度な税務に携われる可能性が高い

国際税務やデューデリ、M&A等の高度な税務に携われる可能性があります。
税理士事務所等では、国際税務のような案件を受けず、法人税申告業務等を中心としているケースが見受けられます。税理士事務所の主なクライアントとなる中小企業では、国際税務のような高度な税務業務を必要としないためです。その点、大企業の企業内税理士になると、企業の動向によっては国際税務等の高度な案件も巡ってくるでしょう。

高度な案件とまではいかずとも、日常的に税務相談を受け、連結決算業務等も行うことになります。一般的な小規模税理士事務所よりも、高度な案件に携われるチャンスが多いのです。

企業内税理士のデメリット

企業内税理士になると下記のデメリットも発生します。
転職してから後悔しないように、事前にチェックしておきましょう。

自社にしか関われない

企業内税理士は企業の中で働く職業ですので、自社やグループ企業にしか携われません。
一般的な税理士ならば多くの中小企業に関われますが、企業内税理士となるならば、多くても数社の税務を、長期にわたって見守り続けることになります。
あまり変化のない時には、退屈な業務だと感じる瞬間も発生するでしょう。

一方で、海外進出等の折には国際税務等の高度な業務に携われますし、IPO等の特殊な業務も経験できるかもしれません。

細々とした経理等の作業も発生する

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高度な税務業務を中心に活躍できる企業内税理士ですが、税務業務が発生しない時期には経理部に混じって記帳をしたり、雑務に勤しんだりすることもあるでしょう。
企業内税理士はその企業の従業員という位置付けですので、企業が指示する業務は実施しなければなりません。
指示内容が税務に関連しない場合でも、企業内税理士は仕事として対応することになります。

しかし突発的に高度な業務の依頼もされ、業務内容は高度か否かを問わず非常に幅広いものです。
言い換えれば、税理士事務所では体験できない多くの業務を経験できます。

給与は年功序列

税理士資格の資格手当等はほぼ発生しません。
多くの大企業では年功序列制度を基礎とした給与体系になっており、仕事の良し悪しよりも従事年数で給与額が決まります。
仕事の成果が給与に反映されないことから、モチベーションが落ちてしまう恐れがあります。

ただし休日や福利厚生面は最高レベルですので、給与額だけで良し悪しを決めるのはおすすめしません。休日にプライベートを充実させられることも大きな特権と言えるでしょう。

企業内税理士に転職するには

企業内税理士として転職するなら、大企業を中心に求人情報を探してみましょう。
企業内税理士の求人はそれほど多くはありませんので、腰を据えてじっくり探すのが得策です。まずは最新の求人情報を確認して、募集があればすぐに応募してください。

まとめ

企業内税理士とは、所属する企業における税務アドバイザーであり実務担当者です。
各種決算申告や納税業務、その他様々な税務業務に携わります。時には経営者層から税務面でのアドバイスを求められることもあるでしょう。企業内税理士は頼られる存在なのです。

本記事で紹介したように、企業内税理士は多くのメリットを享受できます。一方で、税務についての高度な知識や経験、その他大企業の従業員としてふさわしい能力が求められます。
高度な知識を生かし、満足できる給与や充実した福利厚生を受け取りたい人は、企業内税理士を目指してみてはいかがでしょうか。

執筆 ・ 監修

城之内 楊

株式会社ミツカル代表取締役社長

株式会社ミツカル代表取締役社長。 1990年生まれ。20代では士業向けのコンサルティング会社(株式会社アックスコンサルティング)で最年少役員として8年間勤務。これまで、3,000以上の税理士事務所のコンサルティングや士業向けのセミナーに複数登壇。さらにはスタートアップから上場企業まで外部顧問や役員としても活躍する。 退職後、税理士業界を活性化するために、税理士事務所の採用支援サービスを展開する株式会社ミツカルを創業。ミツカルでは年間2,400名以上の税理士事務所の求職者をサポート。審査基準を通過した優良事務所のみを紹介しており、ミスマッチのない転職支援を行っている。