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税理士が押さえるべき事業承継の実務と支援ポイント

公開日:2025/05/23

最終更新日:2025/05/23

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「うちもそろそろ事業承継を考えていてね」と、顧問先から相談されたことはありませんか?
中小企業の高齢化と後継者不足が深刻化する中、税理士への相談はますます増えています。

しかし、事業承継は税務だけでなく、経営・法務・人間関係まで広がる複雑なプロセスです。
だからこそ、税理士は「専門家」ではなく「伴走者」としての価値が問われています。
自社株評価、納税猶予、後継者育成、M&A支援——求められる役割は多岐にわたります。
実はこの事業承継こそが、税理士業務の幅を広げる最大のチャンスなのです。

「記帳・申告業務」から脱却し、経営に寄り添う新しい税理士像へ。
本記事では、事業承継を軸にコンサル・資産管理・M&A支援へ展開する具体策を紹介します。

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なぜ今、税理士に「事業承継支援」が求められているのか?

中小企業の経営者が高齢化し、後継者不在の企業が増えるなか、「事業承継」は喫緊の社会課題となっています。こうした中で注目されているのが、「税理士による事業承継支援」です。税理士は、日ごろから企業の財務や経営実態に深く関わっており、事業承継のパートナーとして最も身近な存在といえます。

以下では、なぜ税理士に事業承継支援が求められているのか、その背景と役割を解説します。

中小企業経営者の高齢化と後継者不足

日本の中小企業は、経営者の高齢化という大きな課題に直面しています。

● 背景データ

項目 内容
中小企業数 約357万社(全企業の99.7%)
経営者の平均年齢 約60歳超(年々上昇傾向)
後継者不在率 約60%(中小企業庁調べ)

※出典:中小企業庁「中小企業白書」

● なぜ問題なのか?

企業の廃業リスク:黒字企業でも後継者がいなければ廃業を選ばざるを得ない
地域経済への影響:雇用喪失、技術の断絶、地場産業の衰退につながる
事業承継の難易度:親族・従業員・外部承継それぞれに課題がある

税理士は顧問先の実情をよく知る存在

税理士は、企業の経営実態や財務状況を日常的に把握している存在であり、事業承継をスムーズに進める上で欠かせません

● 税理士が担う事業承継支援の役割

税務の専門知識の提供
 ◦贈与税・相続税・譲渡所得税などの最適な税務設計

資産・株式の把握と評価
 ◦自社株の評価、事業資産の棚卸と整理

経営者との信頼関係
 ◦長年の顧問関係に基づく相談のしやすさ

専門家ネットワークとの連携
 ◦弁護士、司法書士、中小企業診断士との協業支援

● 事業承継支援の流れ(税理士の関与場面)

フェーズ 税理士の役割
現状把握 財務状況・株式の把握、経営者の意向確認
承継プラン設計 税務戦略の立案、承継方法の選定(親族・M&A等)
実行支援 株式移転手続、贈与・譲渡契約、税務申告
フォローアップ 次世代経営者の支援、組織再編、節税策提案


事業承継における税理士の役割とは?

事業承継は単なる「後継者へのバトンタッチ」ではなく、法務・税務・人事・財務が複雑に絡み合うプロジェクトです。その中でも、税理士は「税務と財務の専門家」として中核的な役割を担います

特に以下の3点が、税理士に求められる重要な支援領域です。

相続・贈与・譲渡の税務アドバイス

事業承継では、自社株の移転や資産の分配により、相続税・贈与税・譲渡所得税が発生します。これらの課税を最適化する設計が必要です。

● 主な支援内容

・自社株評価と納税額のシミュレーション
・納税猶予制度(事業承継税制)の活用提案
・譲渡・贈与タイミングの最適化による節税対策
・不動産や退職金とのトータル税務設計

税目 発生の場面 税理士の役割
相続税 経営者死亡時の株式・資産の移転 評価額の算定、納税猶予の手続き支援
贈与税 生前贈与による承継 税率の検討、連年贈与・分割移転の提案
譲渡所得税 第三者への株式譲渡等 譲渡益の算出、特例措置の検討

組織再編やM&Aといった選択肢の提示

「親族承継」だけが選択肢ではありません。従業員承継、第三者承継(M&A)なども含めた柔軟な提案が必要です

● 主な支援内容

・組織再編(分社化・持株会社化)による株式移転の円滑化
・M&A仲介業者やファンドとのネットワーク活用
・スキーム別の税務影響比較と最適案の提示

選択肢 説明 税理士の関与
親族承継 親や子への株式移転 贈与・相続税の最適化
従業員承継 幹部社員に株式を譲渡 資金調達方法・税務対策支援
M&A 外部に売却 スキーム設計・譲渡益課税の抑制

他士業との連携による全体設計の支援

事業承継は税務だけで完結しないため、弁護士・司法書士・中小企業診断士・金融機関などとの協業が不可欠です。税理士がハブとなって全体を取りまとめる役割が求められます。

● 協業のイメージ

専門家 役割 税理士との連携ポイント
弁護士 契約書・遺言・争族対策 法的リスクを税務戦略に反映
司法書士 登記、株式名義変更 登記情報と財務情報の整合性
診断士 経営分析、後継者育成支援 財務・非財務の両面から助言
金融機関 資金調達、保証関係 承継時の借入や事業資金対策


税理士が知っておくべき事業承継税制のポイント

中小企業の事業承継において、自社株にかかる相続税・贈与税の負担が大きな障壁になります。これを軽減するための制度が「事業承継税制」です。

自社株評価と納税猶予制度の仕組み

事業承継税制とは、自社株にかかる相続税・贈与税の納税を猶予・免除できる制度です。制度を活用するには、まず「自社株評価の理解」が前提となります。

● 自社株評価の基本

評価方法 適用場面 特徴
類似業種比準価額方式 株式が売買されていない中小企業の株式評価 同業上場企業の指標を参照する
純資産価額方式 比準できる企業がない場合 貸借対照表ベースで資産を評価
配当還元方式 少数株主・安定株主の場合 安定配当を前提とした簡便評価

※原則的評価では、比準・純資産の併用が基本です。

● 納税猶予制度の概要(通常制度/特例制度)

区分 通常制度 特例制度(2025年まで)
適用対象 中小企業の非上場株式 特定の認定中小企業
猶予割合 相続:80%、贈与:100% 相続・贈与ともに100%
株式要件 発行済株式の2/3まで 全株式が対象(制限なし)
承継者要件 代表者になる必要あり 同様(代表者要件あり)
事前認定・計画書 不要 必要(2024年末までの提出)


誤解されがちな適用要件と注意点

制度の内容は複雑で、誤った理解による失敗例も多く報告されています。税理士が誤解しやすいポイントを押さえておくことが重要です。

● よくある誤解と注意点

誤解されがちな点 実際のルール 税理士としての留意点
「贈与すれば無条件で免除」 あくまで「猶予」であり、要件を満たし続ける必要あり 承継後5年間の報告義務、雇用要件などを管理
「全ての中小企業が対象」 資本金・従業員数などの制限あり 対象企業の要件確認を怠らない
「猶予を受ければ将来も安心」 要件逸脱で猶予打ち切り、全額納税のリスクあり 法改正や経営状況の変化にも対応を


実務で押さえるべき事業承継のステップとスケジュール

事業承継は数年単位の中長期プロジェクトであり、計画性と多面的な支援が不可欠です。特に税理士は、税務だけでなく、承継プロセス全体を支える「伴走者」としての役割が求められます。

以下では、実務で押さえるべき主なステップとスケジュール、支援上の注意点を整理します。

現状分析から承継スキーム決定までの流れ

まずは現状を把握し、最適な承継方法(親族・従業員・M&A)を選定するまでのステップが重要です。

● 初期フェーズで行うべき事項

経営者の「引退意思」や「希望時期」の確認
自社株や資産の現状把握と評価
後継者候補の有無と育成状況の確認
会社の業績、借入状況、経営課題の洗い出し

ステップ 内容 税理士の役割
ヒアリング 経営者の意向確認 課題の可視化、承継動機の整理
資産評価 自社株・不動産等の現状分析 株価評価、財務整理
後継者確認 親族・社員・外部の候補調査 関係者ヒアリング、課題抽出
スキーム選定 親族承継 or M&A等の方向性決定 税務影響・コスト面から助言

計画策定・実行支援・モニタリングの重要性

承継方針が定まったら、実行フェーズに向けて「計画」「支援」「フォローアップ」の3段階で進める必要があります。

フェーズ 期間の目安 実務内容 税理士の関与
計画策定 開始から半年〜1年 承継時期、方法、税務対策を明文化 計画書の作成、納税資金の試算
実行支援 承継開始から1年程度 株式譲渡・贈与、登記、契約等 書類作成支援、申告業務
モニタリング 承継後3〜5年 雇用要件・税制要件の遵守確認 定期報告支援、税制見直し対応

家族間の利害調整とコミュニケーション支援

事業承継では、家族間の感情的・利害的な衝突がしばしば起こります。税理士は第三者的立場から、冷静なファシリテーション役も担うことが期待されます。

● よくある対立構造

利害関係者 主張・懸念 支援の方向性
現経営者 継がせたいが不安も大きい ビジョンの言語化支援
後継候補 引き継ぐ不安や準備不足 資金・人材支援の段取り
非後継家族 公平性・納得感を重視 資産配分や遺留分の考慮


● 税理士の関わり方

・感情的対立を避ける「数字ベース」の説明
・遺言や株式分散対策の事前整理
・必要に応じて、弁護士・心理士との連携

事業承継をきっかけに税理士業務の幅を広げるには?

事業承継支援は、「単なる相続税対策」にとどまりません。むしろ、承継を契機としてコンサルティング、経営支援、資産管理、M&A支援など幅広い付加価値サービスに展開できる大きなチャンスです
ここでは、税理士が事業承継を武器に業務の幅を広げる具体策を紹介します。

コンサルティング業務への展開

経営者交代は、企業の戦略や組織体制を見直す絶好のタイミング税理士が事業承継に関与することで、経営コンサルティングの入り口が開かれます

● 展開できるコンサル領域

・経営戦略の再構築(次世代経営者の意思決定支援)
・組織体制の見直し(職務分掌や役員構成の見直し)
・管理会計・資金繰り改善(業績把握の仕組みづくり)

コンサル領域 具体的支援内容 税理士の強み
戦略支援 中期経営計画、事業ドメインの整理 財務視点と実務視点を併せ持つ
組織設計 ガバナンス、権限委譲、後継者教育 第三者としての客観性
管理会計 部門別会計、KPI設計 月次処理をベースに展開可

承継後の経営改善や資産管理までの伴走支援

承継はゴールではなくスタートです。後継者の「経営者としての孤独」を支える伴走者として、税理士が寄り添うことが長期的な信頼関係につながります

● 承継後に必要な支援

・経営レポートの提供と月次ミーティング
・経営指標の見える化と意思決定支援
・退任後の先代経営者の資産管理・相続対策

項目 支援内容 メリット
経営支援 月次の数値報告・分析 数字に基づく経営判断が可能に
資産管理 先代の不動産、金融資産、贈与設計 顧問契約の継続・資産税業務に展開
心理的支援 承継初期の意思決定支援 後継者との強固な関係構築

中小M&A支援機関としての登録活用

後継者不在の企業に対しては、第三者承継(M&A)も有力な選択肢です。税理士が「中小M&Aガイドラインに基づく登録支援機関」となることで、新たな収益機会が生まれます。

● 登録支援機関としてのメリット

・国の補助金制度(FA費用の一部支援)を活用できる
・M&A仲介会社との連携で業務範囲が広がる
・スキーム設計や税務支援に専門性を発揮

支援内容 税理士の役割 報酬モデル
スキーム設計 株式譲渡 vs 事業譲渡の検討 着手金+成功報酬型
税務支援 譲渡益課税・資産譲渡の整理 決算支援・申告報酬
関係調整 売り手・買い手・仲介者との調整役 継続顧問化も視野に

事業承継支援は、税理士にとって最大の差別化ポイント

AIや自動化が進む中、「記帳や申告だけの税理士」は選ばれなくなっていきます。逆に、経営者の意思決定に寄り添い、人生と会社をつなぐ支援ができる税理士は今後ますます求められます

● 他の税理士との差別化になる理由

・顧問契約の深度が圧倒的に高まる
・税務・経営・相続の複合知識が求められ「代替されにくい」
・承継支援を軸に、新規顧客・紹介案件が生まれる

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税理士が押さえるべき事業承継の実務と支援ポイント -まとめ

事業承継は、税理士にとって単なる相続・贈与の税務対応にとどまらず、コンサルティング・経営支援・M&A支援へと業務領域を広げる絶好の機会です。承継前から承継後までの全フェーズに関与することで、顧問先との信頼関係はより強固になり、「税理士にしかできない価値提供」が可能になります。
中小M&A支援機関の登録や、承継後の経営改善支援といった取り組みも含め、事業承継支援は今後の税理士業務の中核かつ差別化の武器となります。

この記事がお役に立てば幸いです。

執筆 ・ 監修

税理士 平川 文菜(ねこころ)

税理士|熊本出身|2018年京都大学卒業| 在学中より税理士試験の勉強を始め、2018年12月に税法三科目(法人・消費・国徴)を同時に合格し、官報合格を果たす。 2018年9月よりBIG4 税理士法人の一つであるKPMG税理士法人において、若手かつ女性という少数の立場ながら2年間にわたり活躍。税務DDやアドバイザリーといった幅広い業務に従事。 2020年9月より、外資系戦略コンサルティングファームであるボストンコンサルティンググループに転職。戦略策定から実行支援まで幅広い業務に従事。2024年12月にフリーランスとして独立。