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相続税の業務内容とは?知っておくべき全貌と実務のリアル|税理士の仕事

公開日:2025/12/12

最終更新日:2025/12/12

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税理士業界において、現在もっとも熱い視線が注がれている分野、それが相続税です。

かつて相続税とは、一部の富裕層だけに関係する特殊な業務内容でした。しかし、平成27年(2015年)の税制改正によって基礎控除額(非課税枠)が大幅に引き下げられたことで、相続税の課税対象者が急増。「普通の家庭」でも相続税申告が必要になる時代が到来しました。これに伴い、税理士に求められる業務内容も大きく変化しています。

これから税理士を目指すあなたにとって、相続税業務は間違いなく将来のキャリアの主軸となり得る分野です。しかし、一般的な法人税務とは異なり、その業務内容は多岐にわたり、独特のスキルと人間力が求められます。

本記事では、税理士の業務内容の中でも特に専門性が高い「相続税」にスポットを当て、その仕事の流儀、プロフェッショナルとしての役割、そして実務の現場で何が行われているのかを徹底解説します。

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1. 税理士の相続税業務とは?

まず、税理士が行う「相続税業務」の全体像と、なぜこの業務が特別なのか、その本質を理解しましょう。

相続税業務の基本概要

税理士の仕事と聞いて多くの人がイメージするのは、企業の「決算」や個人の「確定申告」でしょう。これらは毎年繰り返される「フロー(流れ)」の業務です。対して、相続税業務は、人の死亡という一度きりの事実に基づいて発生する「ストック(蓄積された財産)」に関する業務です。一生に一度あるかないかの重大な局面に関わるため、失敗が許されない緊張感があります。

業務内容は大きく分けて、以下の3つのフェーズ(時期)に分類されます。

① 生前対策(Pre-Inheritance)

相続が発生する「前」に行うコンサルティング業務です。 まだ元気なクライアントに対し、将来の相続税がどれくらいになるかを試算し、納税資金の確保や節税対策を提案します。

財産の棚卸し: 不動産や預金などの財産状況を整理します。

節税対策: 生前贈与の活用、不動産管理会社の設立、生命保険の加入、アパート建築による土地評価の引き下げなどを検討します。

遺言書の作成支援: 誰にどの財産を残すか、法的効力のある遺言書の作成をサポート(弁護士や司法書士と連携)します。

② 税務申告(Post-Inheritance)

実際に相続が発生した「後」に行う業務で、ここが税理士のメイン業務となります。 亡くなった方(被相続人)の遺産総額を確定させ、相続人ごとの税額を計算し、税務署へ申告書を提出・納税します。期限は「死亡を知った日の翌日から10ヶ月以内」と定められており、この期間内に膨大な作業をこなす必要があります。

③続事後対応(After-Care)

申告が終わった後のフォロー業務です。

税務調査対応: 申告内容に漏れや誤りがないか、税務署の調査官がチェックに来る際の立ち会いです。

名義変更手続き: 不動産の相続登記(司法書士と連携)や預金解約の手続きを支援します。

二次相続対策: 例えば父が亡くなり母と子が相続した場合、次は母が亡くなった時の「二次相続」が控えています。これを見据えた資産運用や贈与のアドバイスを行います。

相続税務の重要ポイント:法人税務との決定的な違い

これから実務に入る方に特に知っておいてほしいのは、「相続税は担当する税理士によって税額が変わる」という業界の常識です。法人税や所得税はある程度計算ルールが明確ですが、相続税は「財産の評価(いくらかと見積もること)」に大きな裁量の余地があるからです。

時価がない財産の評価: 現金や上場株式は金額が明白ですが、土地や自社株(非上場株式)には「明確な時価」がありません。特に土地は、形状、道路付け、周囲の環境、法的な建築制限などを詳細に調査し、「この土地は使い勝手が悪いから評価を下げられる」という減額要因を見つけ出す必要があります。これができるかどうかが、税理士の腕の見せ所です。

特例の適用判断: 「小規模宅地等の特例(自宅の土地の評価額を最大80%減額できる制度)」や「配偶者の税額軽減」など、適用できれば税額が数百万〜数千万円変わる特例があります。これらは適用要件が非常に複雑で、判断を誤ると過大納付となったり、逆に税務調査での否認につながります。

民法と税法の交差点: 相続税業務は税金計算だけでは完結しません。「誰がどの財産をもらうか(遺産分割)」が決まらないと税額が確定しないため、民法の知識も必須です。時には感情的に対立する相続人同士の間に入り、税務的なメリット(公平性)を提示して話をまとめる調整能力も求められます

2. 税理士が提供する相続税に関する業務内容

ここでは、実際に相続が発生してから申告に至るまでの「10ヶ月間」、税理士がどのような動きをしているのか、タイムラインに沿って具体的な業務内容を見ていきます。実務の現場感が掴めるはずです。

相続実務の流れ:10ヶ月の激闘

【1ヶ月目〜2ヶ月目】初回面談と相続人の確定

ご遺族から連絡を受け、相続業務がスタートします。

ヒアリング: 家族構成、大まかな財産内容、遺言書の有無などを聞きます。この段階では、お客様は深い悲しみの中にいます。事務的な対応ではなく、傾聴と共感の姿勢で信頼関係を築くことが何より重要です。

戸籍の収集: 被相続人の「出生から死亡まで」の連続した戸籍謄本をすべて集めます。これにより、認知した子がいないか、前妻との間に子がいないかなど、相続人を法的に確定させます。これが間違っていると、後の遺産分割協議がすべて無効になるため、非常に重要な作業です。

【3ヶ月目〜4ヶ月目】財産調査と準確定申告

財産の全貌を明らかにします。通帳の記帳履歴を過去5年〜10年分遡ってチェックするなど、地道な作業が続きます。

金融資産調査: 銀行に残高証明書を請求します。通帳のお金の動きを見て、「使途不明金がないか」「家族名義の預金(名義預金)がないか」を徹底的に洗います。

不動産調査: 固定資産税の課税明細書をもとに、所有不動産をリストアップします。

準確定申告: 被相続人に事業所得や不動産所得があった場合、死亡から4ヶ月以内に所得税の申告(準確定申告)を行う必要があります。これを忘れると延滞税がかかるため要注意です。

【5ヶ月目〜6ヶ月目】現地調査と財産評価(最重要フェーズ)

ここが相続税業務のハイライトです。机上の資料だけでなく、実際に足を動かします。

現地調査: 実際に相続する土地へ行きます。「図面では綺麗な四角形だが、実際に行くと高低差がある」「目の前の道路が狭く建築基準法上の制限がある」「近くに墓地があり騒音や臭気がある」など、評価額を下げるための材料を自分の目と足で探します。写真を撮り、役所で道路種別や都市計画法上の規制を調査します。

評価明細書の作成: 調査結果をもとに、国税庁の通達に従って財産評価明細書を作成します。この評価額の算出根拠が、後の税務調査で問われることになります。

【7ヶ月目〜8ヶ月目】遺産分割協議のサポート

財産額が確定したら、「誰が何をもらうか」を決める遺産分割協議をサポートします。

シミュレーション提示: 「母が自宅を相続し、長男が現金を相続するパターン」「長男が全て相続するパターン」など、複数の分割案とそれぞれの税額を提示します。

二次相続の考慮: 今回の税金だけでなく、次に配偶者が亡くなった時の税負担まで考慮して、「今回はお母様がこれを相続した方が、トータルで節税になります」といったアドバイスを行います。

遺産分割協議書の作成: 相続人全員の合意が得られたら、その内容を文書化し、全員の実印を押印してもらいます。

【9ヶ月目〜10ヶ月目】申告書の作成・提出・納税

最終チェック: 誤字脱字、計算ミス、添付書類の不備がないか、事務所内で何重ものチェックを行います。

署名押印・提出: 相続人に申告書の内容を説明し、署名をもらいます。その後、税務署へ提出(現在はe-Taxによる電子申告が主流になりつつあります)。

納付書の交付: 相続税は原則「現金一括納付」です。納付書をお客様に渡し、金融機関で納めてもらって業務完了となります。

相続業務における税理士の役割と重要性:リスクマネジメントのプロとして

なぜ、自分たちで申告せず税理士に依頼するのか。それは「安心」を買うためです。相続税業務における税理士の役割は、以下の2点に集約されます。

1. 税務調査リスクの極小化

相続税は、税務調査が入る確率(実地調査率)が他の税目に比べて高い傾向にあります。特に「名義預金(親が子の名義で作っていた通帳)」や「タンス預金」の申告漏れは厳しく追及されます。 税理士は、税務署がどこを見るかを知り尽くしています。事前に預金の動きを精査し、「これは名義預金とみなされる可能性があるから申告財産に含めましょう」とアドバイスすることで、追徴課税のリスクを回避します。また、「書面添付制度(税理士法第33条の2)」を活用し、税理士が申告内容の正当性を保証することで、調査省略を目指す取り組みも行われています。

2. 円満な相続の演出

相続は「争族」とも呼ばれるほど、親族間の感情がもつれやすい場面です。当事者同士では「兄貴ばかりずるい」「介護したのは私だ」と感情論になりがちです。 税理士は第三者の立場から、「法律ではこうなっています」「税金の特例を使うにはこの分け方が有利です」と、客観的な数字と法律を根拠に話を整理します。この「クッション役」としての機能が、家族の絆を守る上で非常に重要なのです。

3. 相続税業務を上手に活用する方法

このセクションでは、お客様の視点に立ちつつ、税理士としてどのように付加価値を提供できるかを考えます。これは将来皆さんが就職先を選ぶ際の指針にもなります。

税理士選びのポイント:専門特化の時代へ

読者の皆さんに知っておいてほしい業界の真実ですが、「すべての税理士が相続税に詳しいわけではない」ということです。 日本の税理士登録者数は約8万人ですが、年間の相続税申告件数は約15万件。単純計算で税理士1人あたり年間2件弱しか担当しません。多くの税理士は法人顧問がメインであり、相続税は「数年に一度の不慣れな業務」なのです。

そのため、実務の世界では「資産税(相続税)専門」を掲げる税理士法人やチームが存在します。

一般の税理士: 土地評価を路線価図通りに計算しがち(高くなる可能性がある)。

相続特化の税理士: 年間数百件の案件をこなし、不動産鑑定士並みの土地評価ノウハウを持つ。最新の判例や複雑な広大地評価にも精通している。

もし皆さんが「相続税のプロ」を目指すなら、就職先の業務内容が「法人メイン」なのか「資産税特化」なのかをよく確認する必要があります。身につくスキルの深さが全く異なるからです。

相続税業務の活用事例

税理士のスキルが顧客にどのような利益をもたらすのか、具体的な事例でイメージしてみましょう。

事例①:土地評価による大幅な節税

【状況】 亡くなった父が、500㎡の広くて歪な形の土地を持っていた。

【一般的な評価】 単純に「路線価×面積」で計算すると評価額は1億円。相続税額は約3,000万円と試算された。

【専門家の仕事】 現地を詳細に調査。土地の一部に高低差があり宅地として利用できない部分があること、都市計画道路の予定地にかかっていることを発見。さらに「地積規模の大きな宅地の評価」という補正率を適用。

 【結果】 評価額を6,000万円まで引き下げることに成功。相続税額は約1,500万円となり、当初より1,500万円もの節税を実現した。

事例②:事業承継と納税猶予

【状況】 中小企業の創業社長が急逝。自社株の評価額が高く、後継者である長男に数億円の相続税がかかることが判明。会社のお金で払うわけにもいかず、廃業の危機に。

【専門家の仕事】 生前から関与し、「事業承継税制(特例措置)」の適用を準備していた。都道府県知事への認定申請などを期限内に実施。

 【結果】 本来支払うべき相続税の納税が猶予(実質免除に近い状態)され、キャッシュアウトなしでスムーズに社長交代が完了。会社の雇用と技術が守られた。


こうした「顧客の人生や会社の存続を救う」ことができるのが、相続税業務の醍醐味です。

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相続税の業務内容とは? -まとめ

ここまで、相続税の業務内容について解説してきました。お伝えしたかったのは、相続の仕事は単なる「代行業務」ではないということです。

現在、AI(人工知能)の進化により、単純な計算業務は自動化されつつあります。しかし、現地に行って土地の空気感を感じ取ったり、複雑に絡み合った親族感情を解きほぐしたりといった業務は、AIには決してできません。相続税業務は、これからの時代においても、人間ならではの「高度な専門性」と「温かみ」が最も価値を持つ領域の一つです。

これから税理士を目指す皆さん。 勉強は決して楽ではありませんが、その先には、個人の人生に深く関わり、直接「ありがとう」と言ってもらえるドラマチックな舞台が待っています。ぜひ、この奥深くやりがいのある相続税の世界に挑戦してみてください。

執筆 ・ 監修

高梨 茉奈(たかなし まな)

めざせ!TAX MASTER パーソナリティ

2001年生まれ、北関東出身のWEBライター。税務のポッドキャスト番組「めざせ!TAX MASTER」のパーソナリティも務める。商業高校を卒業後、医療事務の専門学校へ進学し、総合病院で2年半勤務。激務と低月収に悩みつつも医療業界で経験を積むが、より自分の可能性を広げるため転職を決意。現在は士業特化の採用支援を行う株式会社ミツカルに所属し、SNS発信やWEBライティングを担当。