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税理士の付加価値業務とは?AI時代に生き残るための『真の付加価値業務』を解説

公開日:2025/12/05

最終更新日:2025/12/05

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かつて「税理士の仕事はなくならない」と言われていた時代がありました。しかし、ChatGPTをはじめとする生成AIの爆発的な普及、クラウド会計の自動化機能の進化により、その神話は崩れつつあります。

「正確な税務申告」は、もはや当たり前の品質であり、それ自体でお金をいただくことが難しい「コモディティ(汎用品)」となりつつあります。これからの時代、税理士が生き残り、さらに収益を拡大させるためには何が必要なのか。その答えは、テクノロジーには代替できない「付加価値業務」への転換にあります。

本記事では、AI時代の税理士の役割変化から、具体的な付加価値業務の中身、そして成功事例に至るまで、事務所変革のための「税理士の真の付加価値業務」のロードマップを詳説します。

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AI時代における税理士の役割変化と付加価値業務の重要性

AI技術の進化と税理士業務への影響

ここ数年で、税理士業界を取り巻く環境は劇的に変化しました。最大の要因はAI(人工知能)とクラウド技術の進化です。

これまで税理士事務所の収益の柱であった「記帳代行」や「税務申告書作成」は、AIによって自動化されつつあります。銀行口座やクレジットカードのデータをクラウド会計ソフトが自動で取り込み、AIが勘定科目を推測して仕訳を切る。この精度は年々向上しており、将来的には「入力」という作業そのものが消滅する可能性すらあります。

これは税理士にとって脅威でしょうか? 確かに、「作業」を売りにしていた税理士にとっては死活問題です。しかし、視点を変えれば、これまで単純作業に奪われていた膨大な時間を、本来の専門業務である付加価値業務に充てられるようになったとも言えます。

「AIは税理士の仕事を奪うのではなく、税理士を単純作業から解放し、付加価値業務へのシフトを促す」

このマインドセットの変化こそが、税理士がAI時代を生き抜く第一歩です。AIが得意とするのは「過去のデータの処理」と「定型的な回答」です。一方で、税理士が提供する付加価値業務で重要となる「複雑な文脈の理解」「感情への配慮」「未来の意思決定のサポート」はAIの苦手分野です。単純作業をAIに任せ、税理士が付加価値業務に専念できる状態をつくることが重要です。

これからの税理士の役割は、AIが作成したデータをチェックする「管理者」であり、そのデータをもとに経営者に気付きを与える「翻訳者」へと変化していきます。数字を作る人(オペレーター)から、数字を使って未来を語る人(アドバイザー)へのシフト。これが業界全体に求められている構造変化です。

税理士が提供すべき付加価値業務とは

では、具体的にどのような業務が税理士の付加価値業務として認められるのでしょうか。現在のトレンドと中小企業のニーズを踏まえると、大きく2つの方向性が見えてきます。

経営コンサルタントとしての役割(MAS監査・伴走支援)

一つ目は、過去会計から未来会計へのシフトです。中小企業の経営者が最も知りたいのは、「過去にいくら儲かったか(決算書)」ではなく、「これから会社をどうすればいいか(経営計画)」、そして「今月、資金はショートしないか(資金繰り)」です。

ここで重要になるのが、MAS(マネジメント・アドバイザリー・サービス)です。

予実管理とPDCAの定着: 単に試算表を渡すだけでなく、期首に立てた計画と実績のズレを分析し、「なぜ売上が届かなかったのか」「どこに無駄な経費があったのか」を経営者と共に毎月検証する会議を行います。これはまさに社外CFO(最高財務責任者)の役割です。

キャッシュフローコーチング: 「利益は出ているのにお金がない」という中小企業特有の悩みを解決します。お金の流れをブロックパズル等の図解を用いて視覚的に説明し、投資の判断や銀行借入のタイミングを助言します。

これらは、経営者の「孤独」に寄り添い、意思決定の壁打ち相手となる付加価値業務です。AIがデータを出すことはできても、「社長、この数字なら今が攻め時です」と背中を押すことはできません。この人間的な関わりこそが、最も高い付加価値を生み出します。

税理士事務所の新たなサービス展開(バックオフィスDX支援)

二つ目は、中小企業の生産性を向上させる「業務効率化支援(DXコンサルティング)」に関する付加価値業務です。

インボイス制度や電子帳簿保存法の改正により、経理業務は複雑化しています。多くの中小企業はIT人材が不在で、これらにどう対応していいか途方に暮れています。そこで、税理士が経理周辺のITツール導入を支援するのです。

クラウド会計の導入・定着支援: オンプレミス型からクラウド型への移行をサポートし、銀行連携やAPI連携を構築します。

周辺業務のSaaS導入: 勤怠管理、給与計算、経費精算、請求書発行などのSaaS(クラウドサービス)を選定・導入し、会計ソフトと連動させます。

これは「税務」の枠を超えていますが、税理士事務所にとっては非常に親和性の高い領域です。なぜなら、お金の流れの入り口(請求・勤怠)から出口(会計・税務)までを一気通貫で整理できるのは、会社の数字を握っている税理士しかいないからです。

このDX支援は、単発の導入コンサルティング費用(スポット収入)だけでなく、その後の保守運用(ストック収入)にもつながりやすく、事務所の収益構造を安定させる新たな柱となり得ます。

税理士が高付加価値業務を選ぶためのポイント

税理士の付加価値業務と一口に言っても、全ての事務所が同じサービスを提供する必要はありません。自事務所の強みやリソースに合わせて選択する必要があります。導入すべき付加価値業務を決める判断軸となるポイントを解説します。

顧客先のニーズを理解する

「高単価なコンサル商品を作ったが、全く売れない」。これは、付加価値業務に取り組もうとした税理士事務所が陥りがちな失敗です。原因は、顧客のニーズとのミスマッチにあります。

例えば、年商1,000万円規模の一人社長の会社に、高度なMAS監査や組織コンサルティングを提案しても、「そんなことより税金を安くしてほしい」と言われるのが落ちです。逆に、年商数億円規模で急成長している企業に対して、節税の話ばかりしていては、「経営の相談に乗ってくれない」と不満を持たれ、契約解除(リプレイス)されるリスクがあります。

成長ステージに合わせた提案: 創業期は「資金調達支援」、成長期は「MAS・予実管理」、成熟期は「事業承継・M&A」、衰退期は「再生支援」など、顧客のライフサイクルに合わせて提供する付加価値を変える必要があります。

「困りごと」のヒアリング: 付加価値とは、顧客が感じる「価値」です。こちらが売りたいものではなく、顧客が「お金を払ってでも解決したい課題」は何なのか。徹底的なヒアリング(傾聴)から全ては始まります。

税務以外のスキルの重要性

税理士が付加価値業務を展開する上で、避けて通れないのが「スキルのリスキリング(再学習)」です。これまでの税理士試験で培った知識だけでは、コンサルティングやDX支援などの付加価値業務はできません。

ITリテラシー: プログラミングができる必要はありませんが、世の中にどのようなSaaSがあり、どう連携すれば業務が効率化するかという「ツールへの理解」は必須です。

コーチング・コミュニケーション: 経営者に「教える(ティーチング)」のではなく、経営者の中から答えを引き出す「コーチング」のスキルが重要です。質問力によって経営者の思考を整理させることが、信頼関係構築の鍵となります。

マーケティング視点: 顧客の売上アップに貢献するためには、ビジネスモデルやマーケティングの基礎知識も必要です。「税金計算屋」ではなく「ビジネスパートナー」として対等に話すための共通言語を持つことが求められます。

成功事例に学ぶ付加価値業務の実践

実際に付加価値業務への転換に成功し、高収益化を実現している税理士事務所の事例を見てみましょう。

先進的な税理士事務所の取り組み

【事例A:製販分離によるMAS特化型事務所】
ある地方の税理士事務所では、徹底的な「製販分離」を行いました。入力や申告書作成を行う「製造部門」と、顧客訪問・コンサルティングを行う「販売部門」を完全に分けたのです。 これにより、担当者は記帳作業から解放され、毎月の巡回監査でじっくりと経営者と話す時間を確保できました。結果、「未来会計(経営計画策定)」を標準サービスとして付加することに成功。顧問料の単価を平均月額3万円から5万円へ引き上げ、さらに別料金の経営会議指導(月額10万円~)の受注も増加しました。

【事例B:バックオフィス特化のDX支援事務所】
若手税理士が立ち上げたこの事務所では、「記帳代行は受けない」と宣言し、「経理の自動化コンサルティング」をフロント商品にしました。 具体的には、ChatworkやSlackでの連絡体制、クラウド会計の導入、AirレジやSmartHR等の周辺ツールの連携をパッケージ化して提供。ITに弱い中小企業経営者から「丸投げできるのに、社内の数字がリアルタイムで見えるようになった」と絶大な支持を得ています。IT導入補助金の申請支援とセットで提案することで、導入ハードルを下げているのも勝因です。

顧客満足度を高めるための戦略

これらの成功事例に共通しているのは、「成果の見える化」です。

ビジュアルでの報告: 数字の羅列である試算表ではなく、グラフや図解を多用したレポートを提供する。

時間的価値の提供: DX支援によって「経理作業時間が月20時間から2時間に減った」という定量的な成果を示す。

感情的価値の共有: 経営者の夢やビジョンを共有し、達成した時に共に喜ぶ関係性を築く。

顧客満足度は、「期待値」を超えた時に上がります。税理士に求められる正確な税務申告という「期待通り」の仕事に加え、経営の良き相談相手としての「プラスアルファ」を提供し続けることが、解約を防ぎ、紹介を生む好循環を作ります。

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税理士の付加価値業務とは? -まとめ

AI時代の到来は、税理士業界にとって「選別」の時代の始まりです。 旧来型の記帳・申告業務にしがみつく事務所は、価格競争とAIによる代替の波に飲み込まれていくでしょう。しかし、これを好機と捉え、テクノロジーを味方につけて付加価値業務へとシフトできる税理士事務所にとっては、かつてないほど大きな可能性が広がっています。

税理士が提供すべき付加価値業務の核心は、「顧問先の永続的な発展を支援すること」に尽きます。

そのためには、以下の3つのステップを踏むことが重要です。

1.業務の効率化: 所内の業務をAIやクラウドで徹底的に効率化し、時間を生み出す。

2.スキルの拡張: 税務だけでなく、財務、IT、コーチングなど、経営支援に必要な武器を身につける。

3.マインドの変革: 「先生」から「伴走者」へ、立ち位置を変える。

変化を恐れず、新しい一歩を踏み出してください。その先には、顧問先から「あなたのおかげで会社が良くなった」と心から感謝される、税理士としての真のやりがいが待っているはずです。

執筆 ・ 監修

安井貴生

税理士

平成27年度税理士試験に官報合格(簿記論・財務諸表論・法人税法・相続税法・消費税法)を果たし、その後10年間に渡り税理士として活躍。 現在は藤和税理士法人所属の税理士として活動しており、法人税・所得税・相続税 等、幅広い業務を担当中。最近では、相続や事業承継案件を多く扱っている。