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公開日:2025/12/18
最終更新日:2025/12/19
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2024年1月、いわゆる「タワマン節税」に対する是正措置が導入され、不動産を活用した相続税対策に激震が走りました。あれからまだ時を経ないうちに、政府・与党から新たな「節税封じ」の方針が打ち出されました。
今回のターゲットは、タワーマンションに限らない「一般的な投資用不動産」と「不動産小口化商品」です。これまで富裕層の間で定石とされてきた「相続直前の不動産購入」や「小口化商品の活用」に対し、国税庁は網を絞りつつあります。
本記事では、自民党税制調査会等の議論で明らかになった制度改正の概要をもとに、今後の不動産評価がどう変わるのか、そして我々税理士や投資家が直面する実務への影響について、専門家の視点で詳しく解説します。
※本記事は2025年12月時点の報道に基づく解説であり、実際の法改正内容は今後の「2026年度税制改正大綱」等により変更になる可能性があります。
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1. 【速報】制度改正の概要:何がどう変わるのか
今回、政府・与党が調整に入ったのは、主に「相続開始直前に購入された不動産」と「不動産小口化商品」の評価方法の見直しです。 これらは、従来の「路線価」などを用いた評価方法と、実際の「購入価格(時価)」との間に生じる乖離(かいり)を利用した節税策を防止することを目的としています。
① 「購入後5年以内」の相続は取得価額ベースへ
これまで、土地や建物の相続税評価額は、原則として国税庁が定める「路線価(土地)」や「固定資産税評価額(建物)」を基に算出されてきました。 賃貸物件の場合、そこからさらに借地権割合などが控除されるため、現金で持っている場合に比べて評価額を大幅に(場合によっては市場価格の3〜4割程度まで)圧縮することが可能でした。
しかし、今回の改正案では、「購入から5年以内の相続」については、原則として「購入時の価格(取得価額)」をベースに評価する方式へ改められる見通しです。
具体的には以下の計算式のようなイメージで調整が進められています。
新評価額の目安 = 購入時の価格 × 地価変動率 × 0.8(2割控除)
つまり、購入価格から無条件に路線価評価へ下がるのではなく、「購入価格から2割程度引いた金額」までしか評価が下がらないことになります。これまでのように「1億円で買った物件が、相続税評価額では3,000万円になる」といった劇的な節税効果は、購入後5年間は期待できなくなります。
② 不動産小口化商品の「抜け穴」を完全封鎖
もう一つの大きな改正点は「不動産小口化商品」です。 これは、都心のオフィスビルなどを数十億単位でプロが購入し、それを1口数百万円〜数千万円単位に小分けにして投資家に販売する商品(任意組合型など)です。これまでは、小口化商品であっても実物不動産と同様に路線価等で評価できたため、購入時期にかかわらず大きな評価減メリットを享受できました。
報道によると、この小口化商品については「購入時期にかかわらず」、実際の取引事例などをもとにした時価ベースで相続税を算定する手法へ切り替える方向です。 一般不動産の「5年」という期間制限に対し、小口化商品はさらに厳しく、商品特有の節税メリットそのものにメスが入る形となります。
2. 改正の背景と「タワマン節税」との違い
なぜ今、矢継ぎ早にこのような改正が行われるのでしょうか。その背景には、国税当局が長年問題視してきた「税の公平性(租税負担の公平性)」の確保があります。
「伝家の宝刀」をルール化へ
これまでは、あまりに露骨な節税行為(相続直前に借金をして購入し、直後に売却するなど)に対しては、国税当局が伝家の宝刀とも呼ばれる通達(総則6項)を用いて、個別に否認してきました。しかし、これでは納税者にとっての予測可能性が低く、法的安定性を欠くという問題がありました。 そこで政府は、個別の否認ではなく、「明確なルール(5年基準など)」を設けることで、誰に対しても公平に網をかける方針に転換しました。
2024年「タワマン節税是正」との関連
2024年1月から施行された「居住用マンションの評価見直し(タワマン節税是正)」は、市場価格と評価額の乖離率を用いて評価額を補正する仕組みでした。しかし、このルールは「居住用の区分所有マンション」が対象であり、一棟アパートやオフィスビル、商業施設などは対象外でした。
今回の改正案は、まさにその「残された抜け穴」を塞ぐものです。 タワマン規制を受けて資金の逃避先となっていた「一棟もの」や「小口化商品」に規制をかけることで、不動産を活用した租税回避スキーム全体に対する包囲網を完成させようとしています。
3. 実務への影響:税理士と納税者が直面する変化
もしこの改正が2026年度税制改正大綱に盛り込まれ施行された場合、税理士の相続実務や、オーナー様の経営判断には極めて大きな影響が生じます。
影響①:相続税申告における実務フローの厳格化
税理士にとって、相続財産に含まれる不動産の調査業務がより複雑になります。 従来は、登記簿謄本や路線価図があれば評価が可能でしたが、新制度下では以下の確認が必須となります。
・購入時期の判定: 相続開始日から遡って5年以内の取得か否か。
・取得価額の証明: 5年前の売買契約書、領収書、決済明細などの精査。
もし、「親が亡くなったが、契約書が見当たらない」「購入価格の内訳(土地・建物・消費税)が不明」といった場合、評価額の算定根拠を巡って税務署と見解の相違が生まれるリスクが高まります。納税者にとっても、証憑書類の管理がこれまで以上に重要になります。
影響②:「駆け込み相続対策」の消滅
「親が余命宣告を受けたので、急いで銀行から借り入れをしてアパートを買う」「預金で都心の区分マンションを買う」といった、いわゆる「駆け込み対策」は、税制面での効果をほとんど失います。 購入後5年以内に相続が発生してしまえば、高い購入価格ベースで課税されるため、むしろ「現金で持っていた方が、納税資金として使いやすかった」という事態にもなりかねません。 税理士としても、高齢のクライアントに対して安易に不動産購入を勧めることは、リスク管理の観点から非常に難しくなります。
影響③:既存の小口化商品の取り扱い
さらに深刻なのが不動産小口化商品です。「購入時期にかかわらず」新ルールが適用されるとなれば、「過去に節税目的で購入し、現在保有している商品」も対象になる可能性があります。 「相続税対策になるから」という理由で、利回りが低くても購入していた層にとっては、節税の梯子を外される形になります。これにより、小口化商品市場全体で売り圧力が強まり、価格が下落するリスクも考慮しなければなりません。
4. 注意点と今後の対策
現時点では議論の段階ですが、政府は年内(2025年末)にまとめる「2026年度税制改正大綱」への反映を目指しています。施行はおそらく2026年(令和8年)以降となるでしょう。 それを踏まえ、今からできる対策と心構えを整理します。
「5年ルール」を見越した長期計画へ
不動産による資産承継効果が完全になくなるわけではありません。「購入後5年」を経過すれば、従来通りの路線価評価(あるいはその時点での新ルール)が適用される可能性が残されています。慌てて対策をするのではなく、元気なうちから資産の組み換えを行い、5年、10年と長期保有する。こうした王道の承継計画のみが、確実な効果を生む時代になります。
「節税」から「投資」への意識改革
「税金が安くなるから買う」という動機は、今後非常に危険です。 たとえ評価額が購入価格ベース(時価の8割程度)になるとしても、その不動産自体がしっかりと賃料を生み出し(インカムゲイン)、将来的に値下がりしにくい優良物件であれば、資産防衛としての意味は十分にあります。 節税効果はおまけ程度に考え、「純粋な投資としてその物件は魅力的か?」という視点で厳しく物件を選定する必要があります。
不動産小口化商品の見直し
現在、小口化商品を保有している方は、その商品の契約内容や市場性を確認してください。もし節税メリットのみを目的に保有しているのであれば、制度改正の具体案が出る前に、出口戦略(売却や贈与など)の見直しが必要になるかもしれません。
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5. まとめ
今回の報道は、国税当局が「行き過ぎた節税」に対して一切の妥協をしない姿勢を改めて示したものと言えます。特に「時価」と「相続税評価額」の歪みを利用した錬金術的なスキームは、今後も次々と封じられていくでしょう。制度の趣旨を理解した上で、適法かつ合理的な資産承継を行うよう心がけましょう。









